累風庵閑日録

本と日常の徒然

木乃伊の花嫁

朝日新聞出版から、『横溝正史金田一耕助シリーズDVDコレクション』が刊行中である。基本的に映像には手を出さないことにしているのだが、次回発売の第三十一号『ミイラの花嫁』は、例外的に買ってみようと思う。二月に行った伊豆旅行でその話になり、作品の面白さをプレゼンされて観てみたい気になったのである。

 そこでまず準備として、由利先生ものの短編「木乃伊の花嫁」を読んでおくことにする。角川文庫では『青い外套を着た女』に収録されている。話に聞くとどうやらこのドラマ、原作と比較してどうこう言うようなものではなさそうだ。だがそれにしたって、原作を一切覚えていないのはよろしくなかろう。

 読んでみると、わずか三十ページの中に派手な道具立てとめまぐるしい場面転換とが詰まっていて、意外なほど密度が高い。「詳しい手段はわからないが」で片付けるおおらかさが、作品の味わいを深めている。筋道立てた事件の解明よりも場面毎の演出効果を重視した作風は、いかにも戦前のスリラー作品らしい。