累風庵閑日録

本と日常の徒然

第二回横溝正史読書会

●午前中は読み残していた「梅若水揚帳」を読んで、『人形佐七捕物帳傑作選』 横溝正史 角川文庫 を読了。

●午後からは読書会である。都内某所の駅前に総勢六名が集合し、会場までバスで移動。とある公共施設の和室に落ち着き、さて、読書会の始まりである。以下ネタバレしない範囲で、話された内容を簡単に箇条書きする。

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まずは総論的に、今回の作品選択について。
・佐七ものを一冊にまとめるのは少々無理がある。今回を「主要登場人物紹介編」として、「活躍編」との二分冊くらいにしてもよかったのでは。

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続いて各論に移る。
「お玉が池」
・お粂はもと吉原の太夫なだけに俳句が一番上手い、という小技でキャラをたたせている。
・ミステリネタが多く、しかもそれらをちゃんと回収している。その一方で、説明不足の要素もいくつかある。 ⇒ 横溝作品は、全般的にすっ飛ばしが多い。
・横溝作品は同じモチーフの再利用が多い。その特徴がこの作品にも表れている。

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「舟幽霊」
・雰囲気に乗せるのが上手い。科学捜査がない時代だからこそ、幽霊話に仕立てることができる。

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「羽子板娘」
・意欲的な作品。不知火捕物双紙でずっこけた後の新規まき直しのシリーズなので、気合が入っていたのでは。
・真相を分かっている探偵と分からないまま引きずられるワトスン役、というクラシカルな短編ミステリの定型を導入している。
・海外作品のネタを再利用するだけでなく、別の趣向も組み合わせている。
・関係者を三人に絞るのは正史の好きなパターン。

・作中で初めての捕物と言っているが、佐七はすでに親から代替わりをしているはず。それまでよほどのらくらしていたのだろう。母親にすら信用されていない。
・ここで初めてやる気を見せたのは、この事件の何かが琴線に触れてスイッチが入ったのではないか。この事件がなければ、ただの遊び人で終わっていた。

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「開かずの間」
・登場人物の心理が特異すぎて理解しにくい。
・題名だけでときめく。
・「うまいなり」とはどういう意味か? ネガティブなニュアンスは分かるのだが……
・この作品でも、不美人のお新は髪がちぢれている。正史にとって、ちぢれ髪が不美人描写の必要条件だったのでは。

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「蛍屋敷」
・蛍はまず魅力的なシーンありきで使われたのではないか。後年の金田一作品では使い方が上手くなっている。

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「梅若水揚帳」
・執筆当時すでに、『座頭市』の映画は公開されていた。勝の市のキャラクターはそこから?
・梅若を裸にした理由は面白い。
・後半、辰と豆六の調査によって次々に情報がもたらされるドライブ感はなかなか。
・死体を雪だるまに埋めるのはそうとう大変なはず。

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その他、全般的な話として、
・辰と豆六ふたりの掛け合いが面白い。
・初期は時代がかった言い回しをあえて採用していたようだが、後期は執筆当時の流行言葉を取り入れるなど、かなり自由に書いていた。
・豆六のスペックは案外高い。粘り強い、目の付け所がいい、教養がある、読書家。
・ライバルの茂平次のキャラクターは正史お気に入り。他のシリーズにも出ている。
・佐七の脳内には、「ご町内美人マップ」があったはず。だからこそ、近所の娘が関わる「羽子板娘」の事件でスイッチが入ったし、「嘆きの遊女」では脳内マップに記載されていない元太夫の存在に驚いた。

 一通り話をし終えた後は、某氏が持参したコピー資料の大披露大会。予告のみに終わった数々の作品の題名が魅力的。かくして、第二回横溝正史読書会は終了したのであった。

●読書会が終わって駅前に戻り、シャレオツな喫茶店から居酒屋へと流れてひたすら横溝話。山梨オフの計画がだいぶ具体的になったのはありがたい。第三回読書会の課題図書も、方向性だけは決まったようだ。