累風庵閑日録

本と日常の徒然

『底無沼』 角田喜久雄 出版芸術社

●『底無沼』 角田喜久雄 出版芸術社 読了。

 角田喜久雄を読むのは十一年ぶりで、前回の印象はあまり覚えてないけれど、こんなにねっとりした文体だったのか。そして、こんなに面白かったのか。読んでよかった。まっこと、本は読むべし、と思う。それにしても前回読んだ春陽文庫の『下水道』では、これほどの面白味は感じられなかったようだが。作品選択と、読む私の年齢と、その他いろいろがいい方向に作用しているのだろう。

以下、いくつかの作品へのコメント
「恐水病患者」:奇人が企む奇妙な犯罪計画は、探偵小説のパロディのような味わいで面白い。
「下水道」:ねばつくような文体でつづられる、頭からお終いまで奇天烈な怪作。なんだこりゃ。
「恐ろしき貞女」:現実に起こりうる、おぞましい恐怖。
「沼垂の女」:何度読んでも不気味。沼垂の読みはこの作品で知った。
悪魔のような女」:こういうテーマでも書いていることに驚く。
「笛吹けば人が死ぬ」:読んだはずだがちっとも覚えていないのは、初読ではこのテーマを理解できていなかったのか。
「年輪」:複雑な人間関係を描き出す、短編ながら重量級の傑作。