累風庵閑日録

本と日常の徒然

『恐怖の島』 サッパー 論創社

●『恐怖の島』 サッパー 論創社 読了。

 登場人物もストーリーも類型的な、ありきたりのスリラー。そう思って読み進めていたら、実は全然違っていた。途中からなんと、南米の孤島を舞台にした正統派モンスター・ホラーになってしまうのである。やあ、こいつは面白いぞ。序盤で類型的だと捉えたのは間違いで、実は普遍的な面白さに通じる定石通りの描写なのであった。

 主人公の従弟パーシーのキャラクターが秀逸。一見だらしないニイチャンでコメディリリーフでありながら、いざというときに思いがけない働きをして主人公を助ける、ナイスな奴である。

 何ヵ所か、ストーリーに決定的な影響を及ぼす大きな偶然が描かれる。どうかするとあまりの偶然に興醒めしかねないところだが、これは要するに、場面場面を面白く転がしていくことを何よりも優先する作者の小説作法なのだろう。そう思ってただそのまま受け入れれば、どうということはない。