累風庵閑日録

本と日常の徒然

『魔人』 金来成 論創社

●『魔人』 金来成 論創社 読了。

 これは面白いぞ。全身緋色の魔人が跳梁するスリラーで、乱歩作品からの強い影響がうかがえる。魔人が孔雀夫人の動静を逐一手紙に書いてよこすところなんざ、まるで「陰獣」である。怪奇趣味もあるし、不可能興味もあるし、過去の秘密も血筋の呪縛もメロドラマも追跡劇もある。要するに娯楽小説の盛り上がる要素がてんこ盛り。見え見えの「意外な」犯人も、ぎりぎりの終盤でいきなり(伏字)ようなハチャメチャで力ずくの結末も、いかにも通俗スリラーらしい。時々作者が登場して読者に向かって煽り文句を投げつつ、物語は軽快なテンポで進む。ただ、なんといってもあまりに素朴なので、五百ページはちと長過ぎるようだ。