●『怪奇な屋敷』 Ｈ・ランドン 論創社 読了。
怪奇趣味の濃い密室殺人という題材は魅力的だし、馬鹿馬鹿しさと紙一重の、力技の真相も大いに買う。解決場面での探偵役の仕掛けも面白い。だが、手放しで褒めることはできない。（伏字）などといった説明不足の点があるし、都合のよすぎる展開がちょいちょいある。さらに、最後になっていきなり（伏字）なんてのを持ち出すなど、全体の整合性よりも場面毎の盛り上がりの方を重視する創作姿勢がうかがえる。スリラー作家が本格ミステリを書くとこうなるという実例かもしれない。
主人公の造形がいまひとつピンとこないのも困りもの。敵のアジトに潜入し、ピストル構えて悪漢相手に一歩も引かない冒険児。そんな彼が、屋敷で起きた怪現象に恐れおののいてパニックに陥る姿は、同一人物のような気がしない。それに、以前「グレイ・ファントム」を読んだ時にも感じたことだが、全般的に一つの場面がやけに長くて、少々スピード感に欠ける。
最初に書いたように題材はなかなか魅力的なのだが、いろいろ惜しい。怪奇趣味、不可能犯罪、雰囲気描写への注力、力技の解決、といった点を踏まえ、失礼ながら作者には「残念なカー」の仇名を奉ることにする。最後にフォローとして書いておくと、読んで時間を無駄にしたとは思わない。あの真相だけで、そこそこ満足しているのだ。
