累風庵閑日録

本と日常の徒然

夜歩き娘

●「横溝正史の『左門捕物帳』をちゃんと読む」プロジェクト。今回は第三話「夜歩き娘」を読む。

 オープニングはチェスタトンの趣向を拝借した魅力的な展開だが、そのあと急に失速する。物語のトーンがまるで変わってしまい、どうにもちぐはぐである。左門の行くところいくつか偶然が重なった挙句、関係者が自らの知っていることを喋ってあっけなく解決という、よくあるパターン。こいつはちょっといただけない。せっかくライバルのハナ啓が登場するのに、その振る舞いは地の文で語られるだけ。憎々しい台詞も左門とのさや当てもないのはもったいない。

●続いて改稿版人形佐七バージョンを読む。題名はそのままに、春陽文庫の『鼓狂言』に収録されている。

 基本構成は同じだが、解決までのステップが増えている。左門版では大事な情報は何もかも関係者が喋ってしまうが、佐七版では情報提示の段取りが多少洗練されている。とはいっても依然として偶然に寄りかかっている部分があって、出来栄えとしてはちと心細い。

 下手人の悪党ぶりが強調され、ねちこくえげつない描写が増えている。そのおかげでとばっちりをくらったかのように、ある人物の境遇がだいぶ悲劇寄りに改変されている。左門版では単純なハッピーエンドだったのが、佐七版では一応収まるところに収まるものの、人生いろいろってな塩梅。

●さらに、佐七版のバージョン違いを確認する。金鈴社の『半分鶴之助』に収録されているのをさっと流し読みした限りでは、文庫版との違いは見当たらなかった。