累風庵閑日録

本と日常の徒然

『グレイストーンズ屋敷殺人事件』 G・ヘイヤー 論創社

●野暮用を終えて忙しさも一段落。やれやれ。と思ったら、夕方から体調を崩した。熱こそないものの、涙鼻水くしゃみのエンドレス状態である。ここ数日喉が痛かったから、嫌な予感はしていた。

●くしゃみしまくりで、頭がぼおっとなって、集中力がなくなる前に、『グレイストーンズ屋敷殺人事件』 G・ヘイヤー 論創社 を読了できた。

 探偵役のハナサイド警視はシリーズキャラクターだそうだが、意外なほど個性が薄い。というのも、他の登場人物が濃すぎるのである。のべつ聖書の文句を引用するグラス巡査、口を開けば嘘とごまかしばかりのヘレン、ろくでもないことを喋りまくり、この世を茶にして生きているネヴィルなど、個性際立つ面々である。

 一ページ目で死体が登場するオープニングはスピーディーだが、事件の内容は平凡で魅力に乏しい。ところが、関係者の行動を分刻みで追及していくうちに、次第に事態は混迷の度を深め、誰も殺人を実行できないという不可能状況が見えてくる。この辺りの「噛めば噛むほど味が出る感」のおかげで、読んでいるうちにじわじと気分が盛り上がる。

 結末では当然、上記の不可能状況はきちんと解明されるわけだが、その解明がなんとまあ(伏字)というのは腰が抜けそうな趣がある。いや、面白いんだけども。

 余談だが、巻末の訳者あとがきは危険である。別に必須とは思えないのだが、先行するある有名作品を引き合いに出している。途中であとがきをぱらぱらとめくっていて一瞬! その書名が目に映ってしまった。直接のネタバレではないが、作品の方向性がこれで分かってしまったのである。おかげで犯人も割と早い段階で見当が付いた。

 巻末解説やあとがきには、今まで何度も痛い目にあっている。いい加減経験から学ぶべきなのに、まだこういうことを繰り返すとは。己のうかつさにあきれる。