●『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか？』 Ａ・クリスティー クリスティー文庫 読了。
いやはや、こいつは傑作。物語の軽快さが尋常じゃない。主人公の男女ペアが事件の謎を探るために東奔西走する。その活躍が活き活きと描かれていて素晴らしく、ぐいぐい読める。脇役でいながら重要な役割を果たす、バジャーのキャラクターもいい感じ。
だが、なんといっても作者はクリスティーである。軽いだけで終わるわけがない。先々に一体どんな捻りがあるか……。そう思いながら読み終えた結果、全く満足。表面的には軽いが、中身は重量級なのである。真相に至る（伏字）という構成には、感心した。もちろん、伏線はきっちり張られていて抜かりはない。結末を読むまで気付かなかったけど。
そしてこの作品のキモ。題名の意味と、意味が判明してからの展開と、どちらも実に秀逸である。状況からすれば、まさしく「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか」が本質的な問いなのである。
