●裸眼だと周囲が何もかも曖昧になる。パソコンで何かやるにしても、顔を画面に近づけなければならず、姿勢が悪くなってやたらに疲れる。夕方になってようやく、新しい眼鏡ができてきた。やれやれ。
遠い昔に「黄色い犬」を読んだがすっかり忘れており、本書が実質的な初シムノンである。メグレシリーズってみんなこんな感じなのだろうか。どうやら雰囲気を楽しむ小説のようだ。ミステリの面白さよりも、人物描写の面白さの方が勝っている。これはこれで、悪くない。
南仏の明るい陽光が作る暗い影の中に、置き去りにされたようなうらぶれた酒場。そこに巣食う人々を中心にして、けだるく、おぼろげな物語が展開される。被害者は、かつて秩序と活動との世界にいた大富豪。けれど彼は、ついうっかり街の魅力に絡めとられてしまい、たちまち無秩序と沈滞との世界に堕ちてきてしまった。メグレはそんな被害者と関係者との姿を見据え、真相に迫ってゆく。