累風庵閑日録

本と日常の徒然

街中うろうろ

●電車に乗って街に出る。東京都千代田区にある国立公文書館で、「書物を愛する人々」と題する展示を観るのである。重要文化財の書物が何点も展示されており、なかでも、完本は世界でここだけという宋時代の韻書「宋版鋸宋広韻(そうはんきょそうこういん)」にはときめく。漢詩押韻を重視するので、漢字を韻で分類する需要があって、そのための辞書を「韻書」というのだそうな。今日初めて知った。

 ところでここは、フラッシュを使わない限り展示物の撮影OKという、ちょっと珍しい施設である。ある書物に大型の蔵書印が押してあり、中の文章は漢文だからもちろん読めないけれど、愛書家心得のようなものが書いてあるそうな。現代語訳が添えてあったので、写しておいた。ちょっと面白いので、参考までにその写真をアップする。

公文書館最寄り駅の竹橋から地下鉄を乗り継いで、湯島まで移動する。某氏から教えていただいた、湯島天神の菊人形を観るのである。ところが、あいにく着せ替え中のタイミングに出くわしてしまった。三体あるうち、中央は小ぶりの花で彩られているが、右はやけに色味が乏しく白と緑が主体の構成。左はまさしく「着せ替え中」で、七割方は下地の青葉が露出していた。人形以外の菊も数多く展示されており、さすがに豪華絢爛。だが、そうそう長いこと眺めていられるものではない。滞在時間短めで立ち去る。

●湯島から地下鉄で千駄木まで移動する。岩田専太郎の画業をメインに展示している、「金土日館」という施設を訪れるのである。一階には肉筆美人画、地下には様々な小説の挿絵原画が展示されている。美人画も素晴らしいが、私の興味は挿絵の方にある。小説が掲載された新聞や雑誌のコピーが絵の横に掲げてあって、比較できるようにしてある。当然だが、原画の迫力は段違い。特に新聞挿絵となるとせいぜい五センチ四方くらいで掲載される訳だが、原画はその数倍のサイズで、しかも彩色してあったりする。残念ながら探偵小説はなかったけれども。

 ところで探偵小説の挿絵がなかったのは、そもそも所蔵されていないのか、それともたまたま展示されていなかったのか。ちょっと気になったので、受付で訊いてみた。
(問)所蔵品の全体像が分かる一覧のようなものはないのか
(答)一般公開している一覧はない
なるほど。

 この施設はあくまでも、専太郎の画業全体を顕彰するものだから、探偵小説という枠で挿絵を捉えたことはないんじゃなかろうか。なんとなくそんな気がして、これ以上突っ込んだ質問はしなかった。

●朝から三か所も歩き回って、すっかり疲れてしまった。もう帰る。後で分かったことだが、たまたま某氏が千駄木にいらしてニアミスしていたのを、気付かずスルーして谷中銀座へ。酒屋の前のベンチで、オヤジ殿が旨そうに酒を飲んでいる姿を見て喉が鳴るが、今日は飲まない日なのでぐっと我慢する。疲れてはいるけれども、秋の好天の休日にぶらぶら歩くのはいい気分である。JR日暮里駅まで歩き、電車に乗って帰宅。

●帰宅後、国会図書館から連絡。依頼している複写資料だが、原本が厚くて喉のところまできっちり開けず、中央部の文章が一部読めなくなるという。やむを得ずそのまま処理を進めていただくようお願いした。ううむ、これは別の図書館を探すべきなのかもしれない。