●『誰でもない男の裁判』 A・H・Z・カー 晶文社 読了。
収録作中のベストは「姓名判断殺人事件」である。殺人の真相よりも、背景の意外さが上出来。題名もちゃんと活きている。短編ならではの鋭い切れ味や予想外のオチといったものを期待して手に取った本だが、案外こんなストレートな作品が面白い。その種の面白さは、「市庁舎の殺人」も同様。また、「猫探し」や「ジメルマンのソース」の軽快さも嬉しい。「ティモシー・マークルの選択」は題材が不愉快なせいで読後感が悪いが、作品の質とは別問題。きちんと伏線が張られていてるところは感心する。