●『鷲』 岡本綺堂 光文社文庫 読了。
怪奇小説集である。文章を味わいながらゆっくり読んでいこうと思っていても、それぞれの作品が不気味で面白く、どんどんページをめくってしまう。その不気味さとは例えば「鰻に呪われた男」の、周りに多くの人がいる状況で自分だけが見てしまった、見てはいけないある出来事。「怪獣」に登場する異様な呪術。「マレー俳優の死」の、ただ静かに姿を消してゆく人々、など。
「くろん坊」は、昔話を思わせる舞台装置のもと、凄惨で容赦のない破滅の物語が展開される。最後にわずかに救済の可能性が感じられるのだが、人によってはどこまでも滅びを読み取ってしまうかもしれない。
