累風庵閑日録

本と日常の徒然

『冬休みの誘拐、夏休みの殺人』 西村京太郎 中公文庫

●『冬休みの誘拐、夏休みの殺人』 西村京太郎 中公文庫 読了。

 他愛ないジュブナイル……と軽く見ていたら、思いの外読み応えがあって嬉しい驚き。中編が三編収録されており、そのどれもが、一筋縄ではいかない紆余曲折っぷりをきちんと楽しませてくれる。

「その石を消せ!」は、釜ヶ崎の少年少女の活躍が面白く、その辺りをもっと読みたかった。それにしても、犯人は勘違いし過ぎ。「まぼろしの遺産」は、冒頭の謎の設定が魅力的。結末のあまりの唐突さは、なんだこりゃ、という苦笑交じりの可笑しさがある。「白い時間を追え」は、秀逸な記憶喪失サスペンス。犯人の設定が(伏字)を思わせて、サスペンスの常道を行くのが楽しい。

 著者の意図しない部分で、時代を感じさせる記述が面白い。「おまえだって、一流の大学を出て、一流の会社にはいりたいと思っているんだろう?」という台詞。東京発大阪行き夜行急行「第二なにわ」。一皿十五円の肉の煮込み。夏の電車は窓を開けて扇風機を回している。ラーメン一杯が六十円。など。