累風庵閑日録

本と日常の徒然

『だれがダイアナ殺したの?』 H・ヘクスト 論創社

●『だれがダイアナ殺したの?』 H・ヘクスト 論創社 読了。

 大仰で時代がかったメロドラマから始まり、やがて物語の焦点はテレビのワイドショーのような下世話な疑惑へと移ってゆく。犯罪実話臭のするストーリーにはあまり魅力を感じないし、とにかく回りくどくてまどろっこしい台詞のおかげで、ページをめくる手も止まりがち。

 だが、作者の視点が意外なほど冷徹なことはちょいと読ませる。傑出したヒーローも奇矯な変人も登場せず、描かれるのは「ちょぼちょぼ」な人間ばかり。彼らの身に備わっているのは、誰もが持っているようなちょっとした弱さとちょっとした愚かさ、そしてその他のちょっとした欠点。時に性格の弱さから嘘をついて重大な事態を引き起こし、時に一目惚れの「恋は盲目」状態に陥って愚かな振舞いをする。主人公ノートンの造形も面白い。大変な美貌で、自分の才能に自惚れを持っているが、傍から見ると平凡な男。というのがなんとも身も蓋もないではないか。

 そして結末に至る。そうすると、ほほう。決して生ぬるい犯罪実話もどきではなく、これはまぎれもなくミステリ! であった。一見平凡に思えた人々の中から、犯人の強烈な個性が立ち上がり、深く企まれた犯罪が姿を現す。特に、(伏字)ておいた、という点には感心した。終わりよければすべてよし。途中はしんどかったけれども、結論として満足である。