●『アンブローズ蒐集家』 F・ブラウン 論創社 読了。
阿刀田高の代表的短編を連想する題名が、読む前から不穏な空気を漂わせている。だが、内容はどうも雲をつかむようで。何しろ事件の手がかりが全くなく、人が失踪したという以上の状況がなかなか見えてこない。ただ、主人公の身内が関わるだけに、焦燥感は伝わってくる。
前回『ディープ・エンド』を読んだ時にも感じたことだが、ブラウンという人、職人的な上手さを発揮する作家なのだろうか。そつのない書きっぷりでそれなりの面白さはある。けれどそつのなさというのは、一面では強烈な魅力がないということでもある。シリーズの既訳作品をぜひとも読みたい気にはならなかった。そんなこと言わずにシリーズを順番に読んで、キャラクターの成長や相互の人間関係を味わうアプローチこそ、楽しめる読み方なのかもしれないけれど。
最後に、十三章末尾の記述にはちょっと驚いた。こういうストーリーの運び方をするのか。こういうのも、単独のミステリ作品としてはあまり感銘を受けなかった一因である。