累風庵閑日録

本と日常の徒然

『二十世紀鉄仮面』 小栗虫太郎 扶桑社文庫

●『二十世紀鉄仮面』 小栗虫太郎 扶桑社文庫 読了。

 すでに私は、虫太郎の超絶論理を面白いと思えなくなっている。精神の柔軟性を失った、ある種の老化である。残念なことだが、やむを得ない。

 そんな状態で手に取った本書だが、表題作は意外にも面白かった。時間軸のスケールの大きさと、海洋冒険小説の味わいが、なかなか読ませる。法水麟太郎が悩み、怯え、恋をして、やけに人間臭いのも面白い。そして麟太郎ってば、大変なモテっぷりである。

 だが楽しめたのも中盤まで。これもまた虫太郎流なのか、あまりにも破天荒な超展開の畳みかけと、相変わらずの超論理とを読んでいると、だんだんどうでもよくなってきた。

 付録で最も面白かったのが、水谷準の「「完全犯罪」危機打者物語」であった。曰く、「「完全犯罪」はともかく、その後のバカげた諸大作は、利巧者のすることではない」というのは可笑しい。