累風庵閑日録

本と日常の徒然

『雪の墓標』 M・ミラー 論創社

●『雪の墓標』 M・ミラー 論創社 読了。

 脇役を含めた多くの人々がそれぞれの不幸を抱えていて、なかなかヘヴィーな内容である。例えば、ふとしたきっかけでそれまで全く飲まなかったアルコールに溺れ、依存症の泥沼にはまる女。現状に不満を募らせ、具体的な計画もなくただここではないどこかへ逃げたがっている女。嫉妬と憎しみとを心の内に飼い続けたあげく、それら負の感情が生み出した妄想に囚われてしまった女。未熟さと無能さ故に何をやってもうまくいかず、いつか道は開けるという根拠のない思い込みにすがりつくしかない男。

 真相は意外ではあるが、(伏字)ではない。ミステリ味は薄く、物語の主軸は事件の真相に対する興味よりも、人物描写にあるようだ。ただ、登場人物達の不幸と悲しみとが胸に迫り、ぐいぐい先を読ませる力は持っている。