累風庵閑日録

本と日常の徒然

河童若衆

●午前中は野暮用。

●午後からジムに行くつもりだったが、なんとなく気分が乗らずサボる。フリーの時間ができたけれども、しっかりした長編小説を読む気にもならず。しょうがないので「横溝正史の「不知火捕物双紙」をちゃんと読む」プロジェクトの第二回をやる。今回は第二話「河童若衆」を読む。

 夜の夜中に手に手を取って駆け落ちする男女二人。男は照り輝くばかりの美少年、銀之丞。女は人三化七というほどでもないが、お世辞にも美人とは言い難い、お千。男は、喉の渇きを訴える女を井戸の傍に連れてくると、水を飲んでいる隙を狙って井戸に突き落とした。初めから、女が家から持ち出した財布が目的だったらしい。

 そんな場面にでくわしたのが燕の伊之助。前回第一話でちょっとした活躍をしたバイプレイヤーが、なんと再登場である。行方が知れなくなったんじゃなかったのか。銀之丞を取り押さえようとした伊之助だが上手くいかず、揉み合いの末片袖を破り取っただけで逃げられてしまった。

 その頃世間を騒がしているのが、お化け小姓、あるいは鬼若衆、と称される殺人鬼で。多くの娘達がかどわかされては殺されているという。どうやら伊之助の出会ったのがそのお化け小姓らしい。伊之助、破り取った片袖を土産に不知火甚左のところへ御注進に参上した。

 なんとサイコ・スリラーである。が、展開は特に捻りもない一本調子で、コメントするのも難しい。不知火甚左は片袖から得られたある情報によって真相にたどり着く。つまり、手掛かりに基づく推理をしているわけで、第一話に比べたら捕物小説に一歩近づいたようだ。だが、読者にその辺りの情報が説明されるのは、結末に至ってからである。ある病気が題材なので、現代ではデリケートな扱いを要するだろう。

 一読して気付くのは、前回と同様の、文体の軽薄さ。初めての時代小説連載で、読者に受けるものを書こうという正史の意気込みもあっただろうし、時代小説向けの文体を模索してもいたのだろう。地の文ではなく台詞の中に、「夜店のバナナぢやあるまいし」なんて出てくる。その辺の軽さをほぼ一手に引き受けているのが、子分であるさん候の候兵衛。なかなかいいキャラクターである。

 もう一点気付いたこと。明記はされていないがどうやら、「御府内太平記」という書物がシリーズの種本である、という裏設定があるらしい。「~太平記」の著者はこう述べている、なんて記述がある。この本は第一話にも出てきて、事件の後日談をそこから引いたという態になっていた。

●さて続いて、改稿版人形佐七バージョンを読む。「お化け小姓」に改題され、出版芸術社の『幽霊山伏』に収録されている。

 内容は基本的に同じ。違いは、人物の名前と設定とを改め、文章を多少整理したくらいである。銀之丞は春之丞に変更されている。「からくり御殿」の場合、燕の伊之助はなぜか隼の浅太郎に改変されていた。今回は小猿吉之助になっている。浅太郎の再登場ではなくなったわけだ。犯罪の内容が変更され、連続誘拐殺人から連続強盗へと、わずかだが大人しくなっている。