累風庵閑日録

本と日常の徒然

『白魔』 R・スカーレット 論創社

●『白魔』 R・スカーレット 論創社 読了。

 よくもまあスカーレットは、こんなオーソドックスな、外連味に乏しい、地味なミステリを書いてくれたものである。血沸き肉躍る、といった類の面白さはないが、いかにもクラシックパズラーらしい味わいに、読んでいてしみじみと感心するし、嬉しくなる。そしてもうひとつ。よくもまあ論創社は、こんなミステリを翻訳刊行してくれたものである。ありがたい。

 犯人の致命的な失策については、これはもう脱帽する。表面的には極めて些細なポイントだが、指摘されると確かに仰る通りの重大な矛盾である。負け惜しみを承知で書くと、こんなの気付くわけないだろ、と思わないでもないが。

 レッドへリングのぎこちなさが不思議。詳しくは書けないが、三点ある。(以下、数行伏字)なんでこういう書き方をしたのか。

 ウェインライトの造形が秀逸。普段はお上品に澄ましているのに、自分がのめり込んでいる事柄に話を振られると半ば我を忘れて滔々と語りだす癖、というのは一部のマニアさんによく見られる姿である。

 探偵役ケイン警視については、今まで読んだシリーズと同様、違和感を拭えなかった。いわゆる天才型の名探偵ならいいのだが、彼は組織の一員である。捜査上の重要な情報を組織で共有せずに隠し持ち、ちゃんと説明をしないまま同僚や知人を振り回し、思わせぶりな台詞で煙に巻く。そんな行動パターンには、どうにも好感が持てない。組織の上長としてはかなり質の悪い部類に属する。