累風庵閑日録

本と日常の徒然

金座太平記

横溝正史の時代小説「緋牡丹銀次捕物帳 金座太平記」を読んだ。正史の戦前スリラー「夜光虫」を下敷きにした作品だというので、その点を自分で確認することが、今回の目的である。出版芸術社の『奇傑左一平』に収録されている。

 結論として、これはまぎれもなく「夜光虫」の再話であった。冒頭の花火のシーンはそのままだし、人間関係やミステリ的ネタにも共通点がある。分量の関係で、エピソードはちょいちょい削られているけども。

 他に気付いた点としては、この作品で書かれた金座潜入のエピソードが、後の「不知火奉行」にほぼそのまま再利用されている。そして「不知火奉行」は、冒頭のシーンが「夜光虫」の流用である。

 以上、時系列で並べると
(昭和十一年)夜光虫 ⇒
(昭和十六年)金座太平記 ⇒
(昭和三十一年)不知火奉行 ⇒
(昭和三十三年)まぼろしの怪人
という流れになるわけだ。昭和二十年代にも流用作品があるかもしれないが、実例が思い浮かばない。その頃は戦後の本格推理小説である金田一ものが全盛で、このような伝奇色の強い題材は使い難かったかもしれない。

 去年の十月に開催された「第三回横溝正史読書会」の課題図書が、「夜光虫」だった。その場で「金座太平記」のことも話題になり、いつか自分で確認してみなければ、と思っていたのだ。これでようやく、読書会から持ち帰った宿題をやり終えた気がする。