累風庵閑日録

本と日常の徒然

『殺人計画』 M・コールス 新潮文庫

●『殺人計画』 M・コールス 新潮文庫 読了。

 数奇な運命によってナチス中枢部に深く関わることになった、英国スパイの物語。主軸となるストーリーがほとんどなく、いかにもスパイ小説らしい短いエピソードが、大きな起伏もなしに積み重なってゆく。また、主人公はナチス内でそれなりの権力を持っているので、様々な場面で自由が利く。したがって隠密裏の反ナチ活動もなにかとやり易い。つまり、サスペンスに乏しい。それぞれのエピソードに小ネタ的な面白さはあるけれど、起伏に乏しくサスペンスにも乏しい本書は、ページをめくる手が止まりがちであった。ナチス関連の近代史に詳しければ、もしかしてもっと楽しめたのかもしれない。

 コールスは、『ある大使の死』が積ん読になっている。本書が心細い出来栄えだったので、そっちを読むモチベーションが低くなってしまった。

●ところでこの本、書誌的な疑問がある。奥付には、原題が「Drink to Yesterday」だとある。ところがネットでいろいろ調べてみると、実際はどうやら第二作「Toast to Tomorrow」の翻訳であるらしい。新潮文庫からはコールスの著作として『昨日への乾杯』という訳書も出ていて、そっちが「Drink to Yesterday」の翻訳なのだろう。本書の奥付が間違っているということか。

 参考として『昨日への乾杯』の内容を確認したいところだが、わざわざ古本を探す必要はない。この本は国会図書館でデジタルデータになっていて、しかも各地の図書館で遠隔閲覧できるのだ。自分への宿題として、いつか気が向いたら図書館に行ってみることにする。