累風庵閑日録

本と日常の徒然

『関税品はありませんか?』 F・W・クロフツ ハヤカワ文庫

●『関税品はありませんか?』 F・W・クロフツ ハヤカワ文庫 読了。

 終盤の捜査側のやり方がちと残念。地道な足の捜査こそがクロフツの持ち味であって、こういうアプローチはいただけない。本書はクロフツ最後の作品で、このときの年齢が七十七歳だというから、もしかしてきっちり小説をまとめ上げる気力体力がなくなっていたのか? などと失礼な邪推をしてしまう。

 だが、全体としては十分満足。カーやクイーンが次第に作風を変えていったのに対して、クロフツは最後までクロフツであった。上記の点以外は、相変わらず地道な捜査が描かれて、この作者らしい滋味が健在である。そして捜査する側が地道なら、犯罪者の側も地道で。計画の立案と遂行とがじっくりと描かれる。また、犯罪に伴うライン川旅行の模様が、ちょっとしたトラベルミステリの趣で面白い。