累風庵閑日録

本と日常の徒然

『カクテルパーティー』 E・フェラーズ 論創社

●『カクテルパーティー』 E・フェラーズ 論創社 読了。

 平穏な村の暮らしにも、小さな山があり谷がある。同居の弟の婚約、近隣住民とのトラブル、恋愛関係のもつれ、無神経な知人のお節介。そういった出来事が、登場人物それぞれに様々な感情の揺らぎをもたらす。そこへ突然発生した毒殺事件。些末な日常を吹き飛ばすような大事件が、人々の感情を激しく揺さぶり、翻弄する。

 その激情はまた、人物像をも揺るがすことになる。よく知っていると思っていた相手の、見たことのない表情、聞いたことのない笑い方、ふとした台詞にうかがえる、今まで見えていなかった意外な性格。フェラーズはそういった大小の揺らぎを丁寧に描き、積み重ねてゆく。

 犯人の正体はかなり意外だったが、強い感銘を受けるタイプの意外さではなかった。むしろ面白かったのは、上記のような繊細な人物描写である。フェラーズってクラシック・パズラーだけの作家だと思っていたけれども、実はそうでもなかった。知らなかったよ。

……まったく、ミステリを読めば読むほど、ミステリを読んでいないなとつくづく思う。未読のフェラーズが五冊あるので、これから先、読むのが楽しみである。