累風庵閑日録

本と日常の徒然

『緯度殺人事件』 R・キング 論創社

●『緯度殺人事件』 R・キング 論創社 読了。

 事件全体を覆う枠組みが、割と早い段階で提示される。枠組みとはつまり、背景となる過去の出来事と、そこから導かれる動機と、犯人の属性である。で、問題は、そういった属性を隠している人物は誰か? という点に集約される。

 そしてまた、こうして読者に示した枠組みを作者が最終的にどう処理するのか? という点もひとつの読み所。枠組みの範囲内で意外性を演出するのか、それともちょいと捻るのか。結論としては、ほほう、そうきたか、と思う。満足である。

 全体にうっすらと漂う不気味さが、味わいを深めている。陸地と連絡が取れず曇や霧で星も太陽も見えず、今どこにいるのか分からない不気味さ。意図の分からない、犯人の行動の不気味さ。解決部分で、主人公ヴァルクール警部補と対決する犯人の造形の不気味さ。