累風庵閑日録

本と日常の徒然

『蝉しぐれ』 藤沢周平 文春文庫

●『蝉しぐれ』 藤沢周平 文春文庫 読了。

 面白いし、上手いと思うが、読んでいる間はなかなかしんどかった。現代サラリーマン社会でもよくある面倒くさい状況が、ちょいちょい出てくるのである。ロジックや戦略に基づかず場の空気で決まる組織の方針だとか、組織の責任を背負い込まされ使い捨てされる個人だとか。また、常に身分の上下や世間のしがらみにがんじがらめになっている状況も辟易する。せっかくの楽しい読書のはずなのに、なんでわざわざ窮屈な現実を思い出さなきゃならんのか。

 ストーリーにからむ謎やチャンバラアクションなんて私好みの要素も出てくるが、どちらもあっさり処理されている。そっち方面の面白さは、本書の主要テーマではないようだ。

●さて今後の課題は、本書を強く勧めた知人に対してどういう感想を述べるかである。そこは、ほら、まあ、大人の付き合いだから、どうにかして褒めたいと思う。でもその一方で、割と遠慮のない間柄だから、いっそ上記のようなことをぶちまけてしまおうかとも考えている。