累風庵閑日録

本と日常の徒然

『守銭奴の遺産』 E・フィルポッツ 論創社

●『守銭奴の遺産』 E・フィルポッツ 論創社 読了。

 ミステリの器を借りて、特異な人物像を描くことに主眼を置いた作品。と、そう読んだ。密室トリックも、手がかりに基づく推理も、意外な真相も、作者の主たる興味の対象ではないようだ。

 この作者の作風なのだろうが、抽象的な語りが多い。善、友情、誠意、信頼といったキラキラ前向きな言説が出る度に、いちいち気持ちが醒める。こちとら別に、精神修養のためにミステリを手に取っている訳ではないのだよ。上記ミステリ味の薄さとも相まって、わずか二百ページ少々のこの本を読むのになかなか難渋した。