累風庵閑日録

本と日常の徒然

『魔女を焼き殺せ』 A・メリット 徳間書店

●『魔女を焼き殺せ』 A・メリット 徳間書店 読了。

「ワールド ホラー・ノベル シリーズ」の一冊である。この作品はつい最近、アトリエサードのナイトランド叢書から新訳が刊行された。このような動きは喜ばしいことである。だが、そいつを買うかどうかは話が別。もう本はできるだけ増やしたくない。うっかり欲しくならないように、この機会に積ん読だった徳間版を読んでしまおうと思う。

 主人公は医者で、頻発する不審死に対してあくまでも、医学的知識と常識的な理論とで対応しようとする。一見相互に何の関係もないように思われる事例の間に、どんなつながりがあるのか。ミッシングリンクを探る活動は、ミステリにも通じる面白さがある。

 ところが事件はしだいに奇怪さを増し、主人公の理性も信じていた現実も、じわじわと侵食されてゆく。この辺りの展開は、いかにも、である。また、どこがどうとは言えないが確実に怪しい描写や小道具が散りばめられて、読み手の想像力を刺激する。それはたとえば、異様な表情、おかしな軟膏、不思議な仕草、奇妙な紐、など。怪奇小説として定石通りのくすぐりである。

 以上の点も終盤の盛り上がりも結末も、さらには根幹となるアイデアも、要するに全般的に実にオーソドックスで、そつなく書かれた怪奇小説の佳品であった。



●健康診断の結果が届いた。毎回引っかかっていて、経過観察という名の放置をしている項目以外は、概ね問題なし。よきかなよきかな。