●『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』 北村薫編 角川文庫 読了。
レナード・トンプスンの二作とロバート・アーサー「ガラスの橋」は、それぞれぱっと情景が目に浮かぶシンプルなネタがお見事。深見豪「ケーキ箱」も同様にシンプルでイメージしやすい良ネタだが、(伏字)しまうんじゃないの? という点が大分割り引かれる。
ロオド・ダンセイニ「客」は、たったこれだけのページ数で背景のドラマを感じさせてくれる。都筑道夫「森の石松」は、ロジックと意外な真相とが面白く、つまりは本格ミステリに対して期待する面白さそのものをきっちり味わえる秀作。
クリスチアナ・ブランド「ジェミニ―・クリケット事件」は、ずば抜けた傑作。素晴らしい。本編はアメリカ版だそうで。以前読んだイギリス版は内容をすっかり忘れているので読み比べてみたいところだが、さあて、『招かれざる客たちのビュッフェ』を、どこにしまい込んだだろう。
秀逸作が多く、実に良質のアンソロジーであった。来月くらいには、姉妹編である『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』を読みたい。
ところで、収録されている「田中潤司語る」の中に、横溝ファンとして興味深い記述がある。横溝正史が「病院坂の首縊りの家」を書いている頃、正史と田中潤司と二人でいろいろ考えて、金田一耕助がアメリカ時代にチャーリー・チャンと遭遇して事件を解決した話を、八分通り作ったという。その時のメモが手元にあるのだそうな。内容を知りたいものである。