累風庵閑日録

本と日常の徒然

『南無三甚内』 横溝正史 文松堂

●『南無三甚内』 横溝正史 文松堂 読了。

 不知火甚内が主人公の捕物シリーズ四編と、非シリーズもの四編とを収録した時代小説集。具体的な収録作は、

「南無三甚内」
比丘尼御前」
「二人星之助」
「幽霊人形」
以上が不知火甚内シリーズ。甚内は、実質的には不知火甚左と同一人である。
非シリーズ作品は、
「白狼変化」
「密書往来」
「名月の使者」
「河童武士道」
である。

 内容については書きたいことが多すぎて、書いても書いても終わらない。もういいからばっさり省略して、短縮版を公開する。

 表題作は、横溝捕物シリーズによくあることだが、捕物色が薄い。甚内があちこち出歩いて、裏事情を知っている者がいろいろ語るのを聴く。それが積み重なることで、親子二代に渡る因縁の連なりが明らかになる。言ってみれば甚内は、事件を解明に導く触媒のような働きをしている。

比丘尼御前」
 不知火甚内の第二話である。同じく正史の捕物シリーズのひとつ、鷺十郎捕物帳の「怪談五色猫」の改作だという。そっちと読み比べてみると、確かに発想のベースにしたらしいことはうかがえる。が、改稿の度合い甚だしく、まるで別の話になっている。共通点はふたつ。ひとつは、狂言作者とその娘とが重要な役回りで登場すること。ただし、それぞれにおける役割はかなり違う。もうひとつは、姿が見えると御家に凶事が起きるという、妖怪とも祟り神ともつかぬ存在が語られること。それが鷺十郎版では「刑部(ぎょうぶ)さま」で、甚内版では題名にもなっている「比丘尼御前」である。

「白狼変化」
 これは快作&怪作。空を飛ぶ白狼を自在に操る怪漢を向こうに回し、千羽に一羽の紅鶴争奪戦を繰り広げる伝奇小説。えっ、そうなるの! というまさかの急展開に驚く。