累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ベンスン殺人事件』 V・ダイン 平凡社

●昨日の寒さで体調を崩し、今日は一日寝てた。

●数日前から読んでいた 『ベンスン殺人事件』 V・ダイン 平凡社 を、布団の中で読了。

 去年読んだステーマン「三人の中の一人」には、「ベンスン」に言及されている個所がいくつもある。それで気になって、再読しようと思いながらいつの間にか一年以上経ってしまった。初読と同じ創元推理文庫で読んでもいいのだが、せっかく平凡社版を買ってあるのだから、そっちで読むことにする。昭和五年刊行の、世界探偵小説全集第二十巻である。

 初読は三十五年ほど昔のことである。もちろん、ストーリーも犯人も、きれいさっぱり忘れている。退屈だったらどうしようと心配していたのだが、意外なほど面白い。それに、探偵ヴァンスの大仰な造形が、馬鹿馬鹿しくも愉快である。ヴァンスが気持ちよさそうに心理的探偵法をぶち上げている様子も、犯人を裁判にかけるためには結局、物的および状況証拠に頼らざるを得ないことを考えると、なにやら可愛げがあるではないか。

 その展開は、関係者一人一人に話を聴き、確認すべき点を一つずつ潰してゆく地道なもの。ヴァンスは知り得た情報から論理的に事件当夜の状況を導き出し、マーカムの性急な判断を何度も覆す。実にもう、ミステリの常道を行くような、なかなかの出来栄えなのであった。いっそのこと、全十二作の残りも再読してやろうかとすら思う。

 ところで、読み終えてからネットを検索していると、ヴァンスが登場する戯曲「クライド殺人事件」が、雑誌『新青年』に訳載されていたことが分かった。気になるので、コピーを入手すべく動いてみようと思う。