累風庵閑日録

本と日常の徒然

『クライム・マシン』 J・リッチー 晶文社

●『クライム・マシン』 J・リッチー 晶文社 読了。

 素晴らしい。短編集の褒め方で「粒揃い」というのがあるが、これほどまでに高い水準で粒が揃っているのは珍しい。個人的年内ベストテンに間違いなく入る傑作。

 どの作品も良いが、あえて一作選ぶなら「旅は道づれ」である。たまたま同じ飛行機に乗り合わせた赤の他人二人。他にやることもないまま、噛み合わない会話をだらだらと続ける。そんな会話を重ねていく中から突然、自分達が置かれている状況が恐ろしい明瞭さでもって浮かび上がってくる。この、ピントが合って「ぱっと見える」瞬間の切れ味が凄い。その切れ味は鋭い剃刀の刃ではなく、何もかもを叩き潰しながら両断する鉈の刃である。

●さてこれで、「晶文社ミステリー」を全て読み終えた。なにがしかの達成感がある。来年からは、「KAWADE MYSTERY」を読み始めることにする。こちらの叢書にはジャック・リッチーが二冊も含まれているので、先々楽しみである。