累風庵閑日録

本と日常の徒然

『大暴れ若旦那』 三橋一夫 春陽文庫

●『大暴れ若旦那』 三橋一夫 春陽文庫 読了。

 初めて読むタイプの小説である。こういうのを「明朗小説」というのだろうか。主人公は天婦羅屋の若旦那。しっかりしていて気配りもできて、明朗で前向きで、礼儀と信頼とを重んじ、子供にも懐かれ、「気は優しくて力持ち」というタイプの、喧嘩に強い巨漢。つまりはある種の理想的人間である。しかも大変なモテモテで、登場する女性という女性から想いを寄せられる。なのにご本人は至って鈍感で、そんな想いにはとんとお気付きでない。この点もある種の価値観が要求する理想像であろう。

 主人公が周囲に巻き起こる様々な騒動を「大暴れ」して丸く収める。理想人間がなんでも解決! 悪漢は懲らしめられ、善良な人達はみんな幸せハッピーハッピー! というお話。刊行当時、いったいどういう読者層が対象だったのだろうか。人の思惑の食い違いや行動のすれ違いを積み重ねて物語が組み立てられているので、話が一本道にならず紆余曲折ある。この点は楽しめた。

 最後に余談だが、格闘シーンに漂うなんとなしの素朴さ長閑さは、往時のプロレスを連想する。Wikiによれば、三橋一夫にはプロレスネタの作品もあるそうで。

横溝正史の短編「廃園の鬼」のデータを整理して、某所にアップ。