●『サム・ホーソーンの事件簿I』 E・D・ホック 創元推理文庫 読了。
いくつかコメント。
「呪われた野外音楽堂の謎」驚くほど多くの伏線が散りばめられていて、収録作品中のベスト。
「乗務員車の謎」夜行列車での旅の様子が楽しい。
「そびえ立つ尖塔の謎」クラシックな味わいの真相で、最も好みに合っているのがこの作品。
「赤い校舎の謎」、「農産物祭りの謎」、「古い樫の木の謎」の三編は、真相にはさほど感銘は受けなかったが、提示された謎が極めて魅力的であった。
ホーソーンシリーズをようやく読み始めた。これから読み進めるのが楽しみである。
●午後はだらだらしつつ、角川文庫の横溝正史『毒の矢』から同時収録の「黒い翼」を読む。もともと目的は表題作の再読なのだが、いい機会だからこちらの作品も再読してみた。テレビの二時間ドラマになりそうなサスペンス色の強い小品。結局のところ犯人が(伏字)という真相は少々拍子抜けである。金田一耕助が緑ヶ丘に姿を現した理由が面白い。今回はたまたま事件が発生してそっちと融合してしまった訳だが、普段から調査の依頼を受けて活動している私立探偵金田一耕助の日常が暗示されている。
●そもそも『毒の矢』を手に取った理由は、光文社文庫の『金田一耕助の帰還』を一年かけて読むという遊びの一環で、収録されている「毒の矢」を角川文庫の改稿版と読み比べてみるためであった。ところが『~帰還』の解説などを読んでみると、これがいろいろと厄介である。原型版と改稿版とを読み比べるのなら、いっそ作品の変遷をもっと上流からきちんと辿って味わってみたい。となると、まずは雑誌「むつび」に掲載された「神の矢」、そして雑誌「ロック」版の「神の矢」、さらに佐七ものの「当り矢」、と追っかける必要があると判ってきた。
うっかり横溝作品に手を出すと、こうやって芋蔓式に読まなきゃならない資料が出てきて、大変なことになる。
●晩はいなだの刺身、残り物の高野豆腐、もずく酢、茄子の塩揉み。冷や酒を飲む。