累風庵閑日録

本と日常の徒然

簡単なお仕事

●朝から電車に乗って街に出る。電車の中で「扉の中の女」を読み、『金田一耕助の帰還』に収録されている「~の中の女」シリーズ三編を読み終えた。三編ともに、あれっと思うほどあっけない。ショートショートか探偵クイズのような読み味である。金田一耕助があまり推理せず活躍せず、真相の多くは最後の章で言葉で説明されるだけである。後に改稿版が執筆された事実からして、これら三編はみな習作に見えてくる。

●街の喫茶店でモーニングを喰い、ちょいと頼まれ仕事。これら三編の登場人物をリストアップするだけの簡単なお仕事です。

●簡単な内容であっても、区切りがつくと一仕事終えた感がする。ここらでひとつ、喉を潤そうと思う。

●駅の傍で朝からやっている大衆居酒屋で、ちょいと昼酒をかますことにする。ところがこれが大外れで。店がお気に入りであっても、いつも必ず気持ちよく酔いを発散できるとは限らないのだ。

赤の他人同士がふとしたきっかけで議論になって盛り上がるというのは、酔っ払いにはよくあることだ。たまたま先客の二人がそうやって談論風発よろしくやっているところに私が入っていってしまった。何とも間が悪いことに、件の二人は三つ四つ椅子を挟んだ離れた席同士で語り合っており、おかげでお互いに声を張ってやり取りしている内容が店内にだだ漏れである。

片方の親父殿がちと性質が悪く、なんとしても相手を論破せずにはおかず、といった気構えでねっとりと語っている。定義、事実、反論、根拠、質問、回答といった単語は呑気な酒場放談には似つかわしくないが、理屈っぽくなるタイプの酔っ払いが舌先で弄ぶにはありがちの単語ともいえる。そんな言葉をべらべらと並べ立てながら、喰らい酔った者特有のしつこさで相手を攻め立てる白髪の親父。その隣にうっかり座ってしまった私の居心地の悪さよ。

心底どうでもいいことを。すぐ隣で。大声で。理屈っぽく。ねちねちと主張されていると、気持ちよく酔えるはずもない。そそくさと店を出た。帰宅して昼寝しても、なんだかぐったりと気疲れしている。酔っ払いの毒気に当てられたのである。やれやれ。

●気を取り直して、もう少し「女」シリーズの登場人物リストアップ作業をやる。

●晩はカレーを作る。最近の定番は鰹と昆布の出汁をベースにしたもの。旨い。赤ワインを一瓶買って少しカレーに投入し、残りを飲む。