●『素性を明かさぬ死』 M・バートン 論創社 読了。
いやはや、実に面白い。地味で起伏に乏しいミステリが、どうしてこんなに面白いのか。それはもう、好みと言う他はない。二百ページ少々の中に書かれているのは、一歩一歩着実に進んでゆく捜査の過程と、探偵役の警部があれこれ頭を悩ます場面と、ほぼそれだけである。そうしたストイックなまでの展開を、楽しく読んだ。殺人手段の面白さも、スパッと決まる結末の意外性も、十分満足である。
一点、(伏字)というのは偶然が過ぎるのではないかと一瞬気になったが、だからこそ犯人があの手段を採用した、と考えれば頷ける。