累風庵閑日録

本と日常の徒然

夢の中の女/霧の中の女

●「横溝正史『女シリーズ』の初出を読む」プロジェクト。まずは「夢の中の女」を読む。ここでひとつ確認。この作品の原題は「黒衣の女」だし、掲載誌も以降の作品とは違う。もともとシリーズ作品ではなかったのである。

 物語を鑑賞することがプロジェクトの趣旨ではないので、あらすじは省略。初出と文庫との違いだけを整理する。まず、登場人物の名前が少々違っている。
初出 ⇒ 文庫
・緒方達造 ⇒ 花井達造(パチンコ屋『大勝利』の経営者)
・雪枝 ⇒ 一枝(達造の妾、『大勝利』のマダム)

 ポイントは結末部分の増補。初出では二段組一ページ半の内容が、文庫では六ページにまで増えている。金田一耕助が語る事件の説明が詳しくなり、特に事件のキモとなる被害者の性格について、より丁寧に掘り下げられている。その他事件全般に対する情報量が増えている。やはり結末部分は改稿されていた。こうやって自分で確認できて、満足である。

●余勢をかって「霧の中の女」も読み比べてみる。

 前半の「イヤリング」の章第三節までは、些細な異動はあるかもしれないが、初出と角川文庫とは同じ。ところが第四節になってからの改稿が著しい。この部分のページ数が大幅に増え、「イヤリング」の章の半分を占めるようになっている。刑事が等々力警部と金田一耕助とに事件の状況を説明するときの台詞も、現場の情景描写も、記述が丁寧になり情報量が増えている。

 後半「脅迫者」の章第三節前半までは同じ。ところが後半から改稿部分が増えてくる。さらに、初出では第三節で結末まで書かれて終わっているのに対し、文庫では新たに第四節が追加されている。金田一耕助が記録者に真相を語る部分は、初出では一ページの四割くらいの分量しかなかった。文庫では第四節が丸ごとその記述に充てられ、情報量が大幅に増えている。

 文庫版第四節で、些細なことだが気になった点がひとつ。改稿・増補の影響で、情報開示の順番にちょっとだけぎこちない部分がある。ネタバレになるので、心覚えのために非公開で書いておく。

(以下、段落ひとつ全部非公開)

 それにしてもこうやって読み比べてみると、初出のテキストってほとんど長めの梗概のようにも思える簡素さである。