累風庵閑日録

本と日常の徒然

鞄の中の女

●「横溝正史『女シリーズ』の初出を読む」プロジェクト。昨日の続きで、第四作「鞄の中の女」を読む。

 初出版が三段組み十ページ、それが文庫版になると五十ページほどになる。前編解決編どちらも三節で構成された初出から、前編四節、解決編五節の構成に改められている。全編に渡って描写も会話もより充実しているが、金田一耕助がある重要なポイントに気付いて以降の描写が、特に大幅に書き加えられている。また、耕助が筆者に説明するお馴染みのシーンも、改稿後に追加されている。初出でこのシーンがなかったのはちょっと意外であった。シリーズものの定型だと思っていたのに。

 初出版と文庫版とで物語の基本的な骨格は変わらない。ただ、上の段落でも書いた終盤の大幅な増補において、なんと犯行の段取りが改変されているではないか。初出では、(伏字)ているのがちと苦しいと思っていたのだが、その辺りの経緯がずっと自然なものに改められている。