累風庵閑日録

本と日常の徒然

『反逆者の財布』 M・アリンガム 創元推理文庫

●せっかくの土曜なのに、朝から病院。夏の人間ドックで引っかかって、半年後の再検査である。

●『反逆者の財布』 M・アリンガム 創元推理文庫 読了。

 ずいぶん変則的な展開である。冒頭、シリーズの主人公アルバート・キャンピオンが、なんと記憶喪失の状態で登場する。彼は何か重大で切実な任務を帯びているらしいが、詳しいことは何も思い出せない。やるべき事の期限がどうやら迫っているようだし、手遅れになると何やら重大な結果を引き起こすような気がする。これは、探偵が事件の謎を探る物語ではないのだ。探偵が、現在自分はどんな事件を抱えているのかを探る物語なのである。

 自分が何をやるべきか、具体的に分からないまま焦りと使命感とに突き動かされるキャンピオン。いろいろあって敵と警察と両方に追われる身となる。頭に浮かぶ手がかりらしき数字「十五」の意味は何か。読み所はその辺りのサスペンスで、次第に高まってゆく緊張感と終盤の疾走感とはなかなかのものであった。結局キャンピオンが抱えていた事件は、全体像が分かってみればその破天荒さが面白い。関連する伏線は、読者が途中で気付けるようには書かれていないけれども、結末に至って振り返ってみればあからさまで、感心する。推理の要素に乏しいのがちょいと心細いけれども、概ね満足できた。