累風庵閑日録

本と日常の徒然

「蔵の中」の初出テキスト

●昨日コピーしてきた横溝正史「蔵の中」の初出テキストを、柏書房版と読み比べてみた。大きな違いは、「私」が姉の顛末を語った後の部分である。初出では、ひとり退屈して過ごす様子も、鏡を覗いてナルシシズムに浸る場面も、ごく断片的なものでしかない。両者を比べると、断然柏書房版の方がいい。この部分が有るのと無いのとでは、人物造形の奥行も物語を覆う雰囲気も段違いである。また前もってこういう描写があればこそ、結末の凄絶さがより一層際立つのだと思う。