累風庵閑日録

本と日常の徒然

『妖盗S79号』 泡坂妻夫 文春文庫

●『妖盗S79号』 泡坂妻夫 文春文庫 読了。

 そのうち読むつもりで放置していたら、最近河出文庫から復刊された。作者のアイデアと遊び心とがぎゅうぎゅうに詰まった、傑作短編集である。ところが、感想を書こうとするとこれがなかなか難しい。あー面白かった、で終わらせたくなる。あまりに要素が多過ぎて、ポイントを絞りきれないのだ。気に入った作品の題名だけ挙げて、逃げておくことにする。

 東郷警部の観察と推理とが光る「庚申丸異聞」、登場する芸術家があまりにも強烈な「檜毛寺の観音像」、まさしく大団円に相応しい「東郷警部の花道」。使われているトリックがシンプルで鮮やかなのが「サファイアの空」、「黄色いヤグルマソウ」、「癸酉一二九五三七番」といったところ。

 たぶん私の気付いていないネタも多く含まれているような気がする。泡坂マニアさんの詳細な解説があれば、読んでみたいところである。