累風庵閑日録

本と日常の徒然

檻の中と洞の中

●「横溝正史『女シリーズ』の初出を読む」プロジェクト。今回は第七作「檻の中の女」を読む。

 初出版は三段組み十ページで、前編が三節、解決編が四節の構成である。角川文庫版は構成が同一で、約三十ページの分量になっている。ざっと読み比べてみると、両者はほぼ同一であった。逐語的に比較したわけではないから、細かな異同はあるかもしれないが。東京文芸社版に未収録の作品は改稿されていないか、もしくは改稿の度合いが低いのでは、という事前の予想通りの結果であった。この点は既に指摘されているけれども、それを自分で確認することに意義があるのだ。

 もう一点、今回分かったこと。三段組みを文庫に組み直すと、ページ数が約三倍になる。ということは、例えば「泥の中の顔」から「泥の中の女」への改稿の場合、三段組み十ページが六十ページになっているのだから、テキストの量としてはほぼ倍になっている訳だ。

●続いて第十一作「洞の中の女」を読む。なお第八作から第十作までは、短編版としては角川文庫に収録されておらず、読み比べの対象外である。

 初出版は三段組み十ページで、前編が四節、解決編が五節の構成である。角川文庫版は前編解決編ともに五節構成となり、約四十ページになっている。上記の計算によると、三割少々の増補ということになる。まず、題名の読みの違いがぱっと目に付く。初出では「洞」の字に「うつろ」と振り仮名が付いているが、文庫では「ほら」と読ませている。

 内容の違いが目立つのが、まず前編の第四節。初出版で登場しない下山警部補が、等々力警部に代わって冒頭のセリフを語っている。また、その内容も多少詳しくなっている。被害者の身元を明らかにする手がかりとして、初出版にはない盲腸の手術痕が追加されている。大きな違いが、追加された第五節。品川良太の一件が丸ごとその節に充てられ、人物描写も含め全般的に詳しくなっている。

 解決編では、第四節と第五節の変更が大きい。第四節では、ストーリーに直接関係のない高井家に関する描写が増えている。事件解決に至るプロセスが変わり、節の末尾で示される重要な情報が丸ごと変更されている。文庫版の方がシンプルだし劇的だし、説得力もある。こちらの方がずっといい思う。初出版で扱われていた情報は、第五節に回されている。その情報の内容も、解明された犯行の経緯も、そして登場人物の造形も、より詳しくなっている。

●今回は改稿有り無しの二作品を読んだが、やはり改稿を施した方がぐっと完成度が高まっているように思う。