累風庵閑日録

本と日常の徒然

『江戸川乱歩と13の宝石』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫

●『江戸川乱歩と13の宝石』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫 読了。

 巻末解題に、過去のアンソロジーとの重複を避けることを優先するあまり、佳作を避けて凡作を採るのは本末転倒だとある。まあ、真っ当である。おかげで、収録作の四割ほどが再読であった。けれども、面白いものは再読でも面白いのだ。今回の目玉のひとつは、乱歩の未発表作品「薔薇夫人」である。未完成だし欠落もあるしの内容はともかく、読める、というそのことが素晴らしい。

 気に入った作品を挙げておくと、高城高「ラ・クカラチャ」、山田風太郎「首」、久能啓二「玩物の果てに」、飛鳥高「鼠はにっこりこ」といったところ。特に久能啓二は、かつて古本マニアの片鱗をちょっぴりかすったことのある私としては、ジャンルは違えどなにやら胸に迫るものがある。

 ところでこれも巻末解題に、気になる記述がある。横溝正史「真珠郎」のモデルは、正史とも面識のあった中村進治郎ではないかという説が紹介されているのだ。その説は、浜田雄介編『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』の注にあるという。この本は持っているはずなので、上手いこと棚に見つかれば、あとで確認してみたい。