累風庵閑日録

本と日常の徒然

柩の中と赤の中

●「横溝正史『女シリーズ』の初出を読む」プロジェクト。今回は第十二作「柩の中の女」を読む。

 初出版と文庫版とを比較すると、両者の間にはほぼ異同無し。やはり、東京文芸社版に収録されていない作品は改稿されていないようだ。

 ところで、何度も読んでいるはずなのに今回初めて気付いた記述がある。結末部分で「論理的に(伏字)の死体」とあるのは、文脈からするとおかしい。そしてこの部分は、文庫版でもそのままになっている。改稿がないどころか、もしかして一字一句初出のままなのだろうか。

 もうひとつ書きたいことがある。今回のプロジェクトでは内容に関してはあまりコメントしないことにしているが、それにしても、だ。偶然が決定的な要因となっているこの事件だが、犯人の本来の計画はどのようなものだったのか。いつどこでどうやって殺したのか。被害者に(伏字)ではないか。読む側が大いに想像力を働かせればなんとかならないこともないが、結末部分のあまりの簡素さ、あっけなさには驚く。今更しょうがないことだが、こういった点を増補した改稿版を読みたいと思う。

●続いて第十三作「赤の中の女」を読む。これも東京文芸社版に収録されていない。で、案の定、初出版と文庫版とで異動は無し。こちらは特に書くことがない。

●もう一編、第十四作「瞳の中の女」を読み比べればこのプロジェクトが完結するのだが、残念ながらこの辺りで気力が尽きた。