累風庵閑日録

本と日常の徒然

『橋本五郎探偵小説選I』 論創社

●『橋本五郎探偵小説選I』 論創社 読了。

 巻末解説に、収録作品の傾向について書いてある。大意としては、意外性のある中間小説といったタイプの作品で、風俗小説の古びるのが早いのと同様に、再評価されることなく埋もれたままになっている、と。読んでみると確かに、こりゃあ後世に残らんなあ、と思う。それはそれとして、決して嫌いではないのだ。「探偵開業」、「塞翁苦笑」、「ペリカン後日譚」といった作品の、情けなくも妙に可笑しい、とほほほ、とでも言う他はない味わいは、好みである。横溝正史の、ある種の戦前短編に通じるものがある。

 全般的に他愛ない結末が多いけれども、世相風俗にただちょいと捻りを盛り込んだだけではない。定番のネタだったり、謎の設定が特異だったりで、ミステリの魅力もそれなりに味わえる。たとえば、密室殺人や凶器消失ネタがある。誰が娘を妊娠させたか? という謎がある。たった一本の煙草が引き起こすサスペンスもある。人間の悪意に焦点を当てたひやりとする結末もある。なかなかに読み応えのある、短編集の佳品であった。