累風庵閑日録

本と日常の徒然

『骸骨島』 高木彬光 神月堂

●『骸骨島』 高木彬光 神月堂 読了。

 悪の怪人と正義のヒーロー神津恭介との闘争劇である。ジュブナイルではよくある話だが、途中からどうも様子が変わってくる。SF的な特殊機器や秘密兵器が次々と登場して、荒唐無稽な頃の007映画を思わせる派手な展開になるのだ。関東地方全域を水爆で壊滅させるという、敵の陰謀の大風呂敷ぶりが凄まじい。そしてなんと、悪の組織は(伏字)ネタではないか。こうなってくると、こりゃあなかなか楽しい。この作品が書かれたのは、映画「ドクター・ノオ」が公開される十年以上前である。

 冒頭の「はじめに」が素晴らしい。高木彬光作品に対する強い想いが伝わってきて、胸が熱くなる。巻末解説も情報量が多いし、付録の作品リストも充実している。とにかく「好き」を原動力として作られた本書は、なんと力のこもった出来栄えであることか。それにしても以前、高木彬光ジュブナイル集刊行という噂を目にしたことがあるのだが、あの話はまだ生きているのだろうか。

 ところでこの作品では、いくつかのテーマが高らかに謳われている。ただ、今の状況はそれらのテーマをまるで虚しくさせるものがある。わざわざここに書くのも馬鹿げているから、何も書かない。もちろん、馬鹿げているというのはそのテーマのことを指しているのではない。