累風庵閑日録

本と日常の徒然

『銀座幽霊』 大阪圭吉 創元推理文庫

●『銀座幽霊』 大阪圭吉 創元推理文庫 読了。

 前巻『とむらい機関車』に続き、安心安定の傑作短編集。その「分かってらっしゃる感」は大変なものである。ナイフを振りかざす姿を目撃された犯人の消失、雪野原の真ん中で消え失せたスキーの跡、高い灯台の天辺に大岩を投げ込んだ赤い怪物、窓から見えるはずのない風景を描いて殺された写実画家、脇道のない道路で消失した自動車、とまあ、嬉しくなるようなネタがつるべ打ちで。

 個人的ベストは「花束の虫」である。手がかりの解釈ががらりと変わって真の意味が判明すると、犯行の不可解な部分が解明され、同時にある証言の矛盾が浮かび上がる。物事がぐるっとひっくり返る面白さ、そしてその一点から事件がするすると解けてゆく面白さ、これらの要素に高い評価を差し上げたい。次点は「三狂人」で、これもまたぐるっとひっくり返る面白さだが、前後の落差が特に強烈である。