累風庵閑日録

本と日常の徒然

『雪割草』 横溝正史 戎光祥出版

●『雪割草』 横溝正史 戎光祥出版 読了。

 主人公に襲い掛かる不幸の連続が、凄まじい密度で語られる。特に、人の悪意と我欲とが原因の不幸は、読んでいてしんどい。もうすっかり満腹である。

 エピソードの多くが、どこかで読んだようなものばかりである。だからこそ、一切引っかかることなく頭に入ってくる。胸に迫る。しかも、文章がやけに平明で、これが正史の文章かと思うほど。おかげで、一切引っかかることなく頭に入ってくる。胸に迫る。

 入れ代わり立ち代わり多くの人物が登場し、物語の進行とともにそれぞれに立ち位置を変えてゆく。それらを一つの大きな流れにまとめあげる正史の構成力は、味わいは全く違うが「神変稲妻車」を連想した。

 一読してみて、この作品が発掘されて刊行されて本当に良かったと思う。素晴らしい。読んだ誰かとあれこれ語りたくなる。