累風庵閑日録

本と日常の徒然

『M・R・ジェイムズ怪談全集1』 創元推理文庫

●『M・R・ジェイムズ怪談全集1』 創元推理文庫 読了。

 久しぶりにきちんと読んだM・R・ジェイムズは、やはり面白い。はっきり書かないことで読者の想像を刺激し、それらを積み重ねて不穏な雰囲気を盛り上げてゆく手法は、私の好み直撃である。というより、その昔一巻本だった創元推理文庫のM・R・ジェイムズを読んで、こういうスタイルの面白さを教えられたようなところもある。

 ジェイムズ先生、伏線が実に上手いのだ。前後の文脈があってこそ効果を発揮するので、どこまでニュアンスが伝わるか覚束ないが、いくつか例を挙げておく。
・想像力の乏しい男だったが、その写真を見せられた夜には、どうしても一人になるのをいやがった。
・この、爪で引き裂いたみたいな痕は、ぼくの寝室の扉についているのと同じだよ。
・そのものは、栗鼠であれ何であれ、脚が四本以上あった。
・お客さん、お連れのかたの切符は?

 何度読んでもつくづく名作だと思う「マグナス伯爵」、モンスターの描写が秀逸な「笛吹かば現れん」、いきなりのクライマックスが強烈な「トマス僧院長の宝」、その他作品名を挙げないけれど佳作秀作が多い短編集であった。第二巻はたぶん来月読む。