累風庵閑日録

本と日常の徒然

『久山秀子探偵小説選III』 論創社

●『久山秀子探偵小説選III』 論創社 読了。

 ちょいと惜しい作品集である。「月光の曲」は、中絶が惜しい。スピーディーな展開を楽しく読んだが、数々の謎が投げっ放しにされたままである。雷巡査山本君、転じて怒れる牡牛、山本枯松刑事の造形が愉快。

 梅由兵衛捕物噺のシリーズは、雰囲気は明朗、展開は快調、キャラクターは魅力的、ちょっとした捻りやロジックの面白さもある。だが、惜しいことにどれもこれも十ページほどの小品なので。結末があっけなかったり、省略が過ぎたりの作品が多い。もう少しじっくり読みたいと思ってしまう。

 シリーズ中で一番気に入ったのが、なんだそりゃ、という内容の「与太郎の恋」である。かっぱらいの与太郎が主人公由兵衛に財布を渡して告げた「あの子に渡してくれ」の言葉。この作品はなんと、その「あの子」とは誰なのかを推理する話なのである。他に、「死出の股旅」も気に入った。いつもの三倍、三十ページの分量を確保してきちんと犯人探しミステリを構成し、その上人間関係の意外さまでも盛り込んである。

●いろいろあって、住民税が還付された。ぎりぎり六桁に達しないという結構な額だ。もちろん裕福になったわけではない。払い過ぎた金が戻って来たのだから、マイナスがゼロになっただけである。